ある企業が画期的な新商品を発表した。
その名も「感情リセットボタン」。
押すだけで、嫌な感情や過去のトラウマを瞬時に消し去ることができるというものだ。
人々はこぞってこのボタンを買い求めた。
失恋の痛みも、仕事のストレスも、一瞬で消える。
誰もが笑顔で生きていける時代が来たかのようだった。
ある男もそのボタンを手に入れた。
彼は日常のイライラや、過去の後悔をすぐにリセットして心穏やかに過ごしていた。
嫌なことが起きるたびに、ボタンを押して感情をリセットする。
初めはそれで満足していた。
だが、ある日、彼はふと気づいた。何も感じなくなっている自分に。
悲しみや怒りが消えてしまった代わりに、喜びや感動も薄れてしまったのだ。
感情がフラットになり、彼の人生はどこか空虚なものに変わってしまっていた。
ボタンを使わなければならないほどの大きな感情を感じることが、
もうできなくなってしまったのだ。
男はボタンをじっと見つめ、もう一度リセットするべきかどうか迷った。
そして最後には、ボタンを机の引き出しにしまい、二度と使わないことを決めた。
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