市役所の片隅にある「貸し物課」。
ここでは、住民が必要なものを無料で借りられるという、
ちょっと風変わりなサービスが行われていた。
鍋、スコップ、折り畳みベッド、果ては喪服まで。
住民たちは便利さに感謝し、毎日行列が絶えなかった。

この貸し物課で働く田村という男がいた。
田村は妙に親切で、住民が申し出た物をなんでも気前よく貸し出した。
規定では一週間の貸出期間だが、
田村は「まあ、もう少し使っても大丈夫ですよ」と、
期限を延ばすのもしょっちゅうだった。
しかし、ある日問題が発生した。
田村がある家族に「何でも相談してください」と言い、
冷蔵庫からテレビ、さらには自転車まで貸し出してしまったのだ。
その家族はそれを売り払って引っ越してしまい、物は二度と戻らなかった。
課長が怒り狂い、
「田村!君は貸しすぎだ!貸し物課の意義を理解しているのか?」と詰め寄った。
しかし田村は穏やかな笑みを浮かべ、こう答えた。
「課長、この世で本当に必要なのは、物ではなく『信頼』です。
物なんて、また買えばいい。でも、一度壊れた信頼は買い戻せませんよね?」
課長は反論しようとしたが、なぜか言葉に詰まった。
結局、田村は厳重注意だけで済み、業務に戻ることになった。
それから一年後、貸し物課にはある異変が起きた。
田村が貸し出した物が、どれもピカピカになって戻ってくるようになったのだ。
洗濯機の故障は修理され、工具セットには新品のパーツが追加されていた。
そして、借りた住民たちは感謝の手紙や地元の特産品を持参するようになった。
田村はただ笑いながら言った。
「返ってくるだけでありがたいです。
でも、何も返らなくても、それもまた信頼の証ですよね。」
課長はそれを聞きながら、内心こう思った。「やっぱり貸しすぎだな」と。


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