山奥の廃村にある一軒の小屋。
そこは昔から
「誰も住んでいないはずなのに、夜になると明かりが灯る」と噂されていた。
好奇心旺盛な若者・直樹はその小屋を一目見ようと、友人たちと探検に出かけた。

小屋に着くと、確かに人の気配はない。
しかし、日が暮れると同時に、暖かな灯りが漏れ始めた。
直樹たちは恐る恐る窓をのぞき込む。
すると、中には白髪の老人が一人、木の椅子に腰かけて微笑んでいた。
「こんにちは、若いの。何か用かな?」
突然、後ろから声が響いた。
驚いて振り返ると、そこには同じ老人が立っている。
直樹たちは慌てて弁解を始めたが、老人は優しく笑った。
「まぁまぁ、そんなに怯えんでいい。
この小屋は昔、わしと妻が暮らしていたところじゃ。
妻はもう遠くへ旅立ってしまったがな」
老人は懐かしそうに語り始めた。
妻の好きだった花を育てるために、毎年春だけこの場所に戻ってくるという。
しかし、彼の話の中には奇妙な矛盾があった。
妻が亡くなったのは数十年前だと言うのに、
老人自身は驚くほど元気で若々しかったのだ。
「おじいさん、どうしてここに?」
直樹が問うと、老人は少し寂しげに答えた。
「わしはここで妻を待っているだけじゃ。
花が咲いたら、きっと帰ってくると信じてな」
その後、直樹たちは老人の手伝いをすることにした。
荒れ果てた庭を整え、花壇を作る。
そして、春を迎えたある日。
小屋の庭には一面の美しい花が咲き誇り、風に乗って甘い香りが漂った。
その瞬間、老人は穏やかな笑みを浮かべて言った。
「ありがとう、若いの。わしはもう十分じゃ」
そう言うと、老人はふっと花びらに溶け込むように消えてしまった。
直樹たちは驚きながらも、なぜか不思議な満足感を覚えた。
老人が残した小屋と花は、廃村を訪れる人々の心を和ませる場所となり、
やがて新たな住民も現れた。
かつての廃村は少しずつ息を吹き返し、やがて賑やかな集落に生まれ変わった。
老人の花が、村に新たな命を呼び込んだのだった。


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