ある未来の話。街にはすべてが「ゾーニング」された本屋があった。
店内は迷路のように複雑で、
それぞれのジャンルに応じたエリアが細かく分かれている。

例えば、「料理本ゾーン」は
「フレンチ料理エリア」「和食エリア」「ダイエット向けレシピエリア」に
細分化されているし、
さらにその奥には「味覚障害者向けの料理エリア」というニッチな場所まである。
「漫画ゾーン」も例外ではない。
「少年漫画」「少女漫画」はもちろん、
「スポーツ系少年漫画」「恋愛系少女漫画」「BL」「GL」などと分けられ、
さらにそれらは「全年齢対象」「15禁」「18禁」ごとに区切られている。
だが、この本屋には問題があった。
ゾーンが複雑すぎて、本を買う前に客が疲れ果てて帰ってしまうのだ。
ある日、一人の青年が店員に尋ねた。
「すみません、『BL』の本を探してるんですが、どこにありますか?」
店員は笑顔で案内を始める。
「まず『漫画ゾーン』に入っていただきます。
それから『大人向けサブゾーン』を通り抜け、
『ボーイズラブエリア』の『全年齢対象サブサブゾーン』に向かってください。
そして、その先にある『ファンタジー設定のみ』コーナーの
『異世界転生作品限定棚』にございます!」
青年は店員の指示通り迷路のような通路を進むが、道のりは果てしない。
途中で疲れ果て、床に倒れ込んだところで気がつく。
「待てよ、俺は『BL』って言っただけで、こんな細かい条件なんて頼んでないぞ!」
青年は急いで戻り、店員に再び尋ねる。
「そもそも普通の『BL』が読みたいだけなんですが!」
店員は目を丸くして答える。
「普通の『BL』…ですか?それは、どのゾーンにも当てはまりません。
すべての『BL』は何かしらのゾーンに属する必要がありますから!」
その答えを聞いた青年は、本屋の外に出て深呼吸をした。
「もういいや、ネットで買おう…」
その後、この本屋は「ゾーニング」を極めすぎた結果、
誰も利用しなくなり閉店したという。
教訓:細かすぎる配慮が、かえって不便を生むこともある。


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