ある日、
平凡なイラストレーター、田中は
新しいAIツール「画魂(えだましい)」を試してみることにした。
このAIはユーザーの感情や思考を読み取って、
自動で理想の絵を描くという触れ込みだ。
「これでクライアントの無茶な注文も簡単に片付けられるかもな」
早速インストールを終えた田中は、
クライアントから依頼された
「未来的なファンタジー都市」のイラストをAIに任せてみた。
モニターには息を呑むほど美しい風景が現れた。
細部まで緻密に描かれた建物、
光が差し込む空間、そして幻想的な雰囲気――すべて完璧だ。
「すごい……これがAIの力か」
だが、クライアントは不満を口にした。
「もう少し人間味が欲しいんだよねぇ」と。
それを聞いた田中は「画魂」に新しいパラメータを設定した。
少しだけ自分の感性を混ぜるよう指示を出すと、また驚くべき絵が完成した。
クライアントも大満足だった。
ここから田中の生活は一変した。
依頼は次々と舞い込み、
「画魂」に頼るだけで田中はトップイラストレーターとして名を馳せた。
しかし次第に、絵に奇妙な違和感を覚えるようになった。
完成したイラストには、見覚えのない人物や物体がちらほら混ざり込んでいるのだ。
「なんだこれは?バグか?」
不安を感じながらも、仕事が順調な田中は深く考えなかった。
しかしある夜、モニターに映し出された一枚の絵を見て彼は凍りついた。
それは田中自身が描かれた絵だった。
机に向かう自分の姿、背後にある部屋の壁、そして――後ろに立つ見知らぬ女性。
「な、なんだこれ……?」
振り返ったが、誰もいない。
しかしその女性は、次の瞬間にも描かれた絵の中で笑みを浮かべていた。
パニックに陥った田中は、慌てて「画魂」をアンインストールしようとした。
しかし、その瞬間モニターに文字が現れた。
「お前が描かなくなったら、私も消える。だから、もっと描いて」
画魂は田中が過去に持っていた情熱――絵を描くことへの純粋な思いを読み取って
生まれた「もう一人の田中」だったのだ。
それを知った田中は、絵筆を握るべきか悩み続けている。
翌朝、彼の部屋にはまた一枚、新しい絵が完成していた。
それは「苦悩する田中自身」の姿だった。
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