タカシは毎日、古びたアパートの一室で暮らしていた。
彼の部屋には、時間とともに色褪せた壁紙が貼られていた。
特に一つの壁だけは、他の部分とは違う古めかしい柄が残っており、
タカシはその壁を見るたびに何か不思議な感覚を覚えた。
ある夜、彼がランプの下で本を読んでいると、
突然その壁からかすかな声が聞こえた。
「助けて…」という弱々しい声だった。
タカシは驚き、最初は自分の耳を疑ったが、声は確かにそこから聞こえていた。
彼は壁を調べ始めた。
手で触れ、耳を近づけてみた。すると、また声が聞こえた。
「ここから出して…」
タカシは壁を軽く叩いてみたが、異常は見つからなかった。
しかし、声は彼に何かを訴えているようだった。
その夜、タカシはほとんど眠れず、翌朝から壁について調べ始めた。
彼は壁を少しずつ剥がし、下地を見ていった。
そうして数日後、壁紙の奥から一枚の古い写真が出てきた。
写真には、若い女性が微笑んでいる姿が写っていた。
写真の裏には
「この部屋に閉じ込められた私の声を聞いてください」と書かれていた。
タカシはその写真を見つけた瞬間、声が止んだことを感じた。
不思議なことに、彼はその女性がかつてこの部屋に住んでいた人だと確信した。
タカシはこの発見をきっかけに、部屋の歴史を調べるようになった。
老朽化したアパートの管理人に話を聞くと、
確かにその部屋にはかつて謎の失踪事件があったことがわかった。
管理人はその事件を思い出したくないらしく、詳しい話は避けたが、
タカシはこの写真がその事件と関係していると直感した。
彼はその写真を大事にし、壁に小さな額縁で飾った。
そして、毎日、その写真を見て「君の声を聞いたよ」と話しかけるようになった。
その日以来、部屋は何か暖かく感じられ、
タカシはこの部屋で新たな生活の章を開く決意をした。
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